展覧会の記録|exhibition archives 2021

「野中 梓 展」

2021年10月11日(月)〜10月16日(日) Oギャラリーeyes

 

・見て描くことについて

2019年秋の個展を終えて少し経った頃に、写真を見ながら絵を描くのをやめてみようと考えていた。その頃のインスタグラムに、こんな文章を書いていた。「私の父は、年をとらなくなってからも毎年Facebook上で誕生日を迎えている。1月12日生まれ。今年もiPhoneのロック画面に通知があった。院に進学した春、父の葬儀の直前、父の顔を描いた。数時間後には無くなってしまう身体、姿、カタチ。ノートに鉛筆で、たぶん15~20分くらい。見て描く事が出来る最後の時間。そんな切実な時間ってなかなか無い気がする。」その絵の出来不出来、良し悪しはともかく、その時その場でしか描けない絵を描いたんだなぁと思い返し、投稿したものだった。

 

・自宅の壁について

日頃よく滞在している場所で、同じ壁面の異なる様相にふと出会う。私が見ていても、見ていなくても、その対象はただそこに在る。普段は気にも留めていないが、関わろうと働きかけたとき(油絵具でその色や光や影を描こうと試みたとき)に、ふと見つかる。写真を使わずに絵を描くにあたって、まず選んだモチーフは自宅の壁面や冷蔵庫などの平らな面だった。そこには「冬の陽の向きじゃないとこの壁に光は当たらないのか」とか「冷蔵庫そのものは白色だけど、廊下の電気と床の反射でこんな色になるのか」とか、ささやかな発見と感動がある。今回展示しているトイレの壁の絵は数日置きに、小窓から陽が差す時間帯にトイレに座って描いた。曇りの日は陽が差し込まなくて描けなかった。

 

・石之ビルの階段について

自宅内の絵を色々と描いてみたあと、他の場所も気になってきた。Oギャラリーeyesにはよく通っているので、展覧会を見たついでに少しずつ石之ビル内の絵を描くことにした。階段に腰掛けて床を眺めていると、床の表面に映り込んだぐにゃぐにゃした形の、固定されない感じが気になった。一見平らなようで実は波打っているので、映り込んだ手摺りや壁や窓が歪んで見える。覗き込む角度が少し変わると、見えている形も変わる。絵の中に現れる像は「瞬間」ではなく、制作に取り掛かった時間の平均的な姿となる。

 

2021年 野中 梓




「今月の みる/きく/よむ」

 

京阪神エルマガジン「SAVVY 2021年11月号」にインタビュー掲載

取材・文/竹内 厚  写真/西島 渚



「群馬青年ビエンナーレ2021」

2021月7月17日(土)〜8月22日(日) 群馬県立近代美術館



「野中 梓 展」

2021年6月14日(月)〜6月20日(日) Oギャラリー